売上高が伸びていても、売掛金の回収が長期化したり、在庫が増えたりすることで、手元資金が不足する場合があります。

決算書から経営悪化の兆候を読み取るには、損益計算書と貸借対照表を組み合わせ、可能であれば複数期の変化を比較することが重要です。

ただし、決算書だけで個別企業の経営悪化や倒産の可能性を断定することはできません。

1. 売上高と営業利益の動きが一致しているか

最初に見るのは、売上高と営業利益の推移です。

売上高が増加している一方で営業利益が減少している場合、売上原価や人件費、外注費などの増加によって、収益性が低下している可能性があります。

ここで重要なのは、利益が減った理由です。

原材料価格の上昇によるものなのか、新規設備への投資や人員増加による一時的な負担なのかによって評価は変わります。

単年度の利益額だけでなく、営業利益率の推移と費用構造を確認します。

2. 売掛金が売上高に対して増えていないか

売上高が横ばいにもかかわらず売掛金が増加している場合、代金の回収期間が長くなっている可能性があります。

確認に使える指標の一つが、売上債権回転日数です。

売上債権回転日数は、受取手形や売掛金などが売上高に対してどの程度残っているかを、日数に換算したものです。

ただし、期末直前の大型受注や支払条件の変更でも数値は動きます。決算日時点の残高だけでは、実際にどの請求が滞留しているかまでは分かりません。

必要に応じて、売掛金の年齢表や入金実績などの追加資料を確認します。

3. 棚卸資産が増加していないか

製造業や卸売業では、棚卸資産の増加にも注意が必要です。

製品や原材料、仕掛品の増加は、販売数量の減少や製造期間の長期化を反映している場合があります。

一方、受注増加への備えや仕入価格上昇への対応として、計画的に在庫を確保している場合もあります。

売上高との関係、受注残高、生産計画、在庫の保有期間を併せて見ることで、増加の理由を検討します。

4. 現預金と借入金がどう変化しているか

営業利益が黒字でも、現預金が減少し、短期借入金が増加している会社があります。

売掛金や棚卸資産に資金が使われ、運転資金を借入で補っている可能性があります。

もっとも、借入金の増加自体が経営悪化を意味するわけではありません。設備投資や事業拡大に伴う資金調達も考えられます。

借入金の返済期限、資金使途、返済原資について、入手可能な情報の範囲で確認する必要があります。

5. 純資産の減少が続いていないか

純資産は、企業の財務基盤を考える際の重要な項目です。

赤字が続いて純資産が減少している場合には、損失を吸収できる余力が縮小している可能性があります。

ただし、増資、配当、資産評価、事業再編などによっても純資産は変化します。

自己資本比率や利益剰余金の推移を確認し、変動の理由を把握します。

決算書を比較すると見えてくること

以下は、同じ会社の前期と当期を比較した架空の数値例です。

項目前期当期
売上高3億円3億円
営業利益1,200万円800万円
売掛金3,000万円4,500万円
棚卸資産2,000万円3,200万円
現預金2,500万円1,400万円
短期借入金1,800万円3,000万円

数値は説明用の仮定であり、実在企業の事例ではありません。

売上高は変わっていませんが、利益と現預金が減少し、売掛金・棚卸資産・短期借入金が増加しています。

この状態で最初に調べたいのは、売掛金と棚卸資産が増えた理由、借入金が必要になった背景、今後の入金と返済の予定です。

数値の組み合わせは追加調査の必要性を示しますが、それだけで経営悪化が確定するわけではありません。

与信判断では、自社との取引状況に戻って考える

取引先の財務指標に変化が見られたとしても、それだけで新規取引や追加受注を停止する判断にはつながりません。

実際の判断では、自社との入金履歴、現在の売掛金残高、支払条件、今後の受注予定額も確認します。

例えば、追加受注を承認する前には、入金が予定どおり行われた場合と、遅れた場合の両方で最大債権残高を試算します。

決算書を入手できない場合や、数値の理由が分からない場合は、推測で補わず、未確認の事項として残します。

取引先の財務状態を見ることと、自社がどこまで信用を供与するかを決めることは別の判断です。

マナコンサルティング合同会社では、売掛金残高、入金履歴、取引条件などをもとに、与信枠や社内承認ルールの設計をご支援しています。

追加受注や与信条件の見直しについて判断に迷う場合は、現在の取引状況をご相談ください。


参考資料

本記事は一般的な財務分析・与信管理の考え方を説明するものであり、個別企業の信用状態を評価・保証するものではありません。